【事例に学ぶ】遊休地を活かすコミュニティ拠点づくり:資金調達、運営、地域連携のノウハウ
はじめに:地域に眠る可能性「遊休地」
地域における課題は多岐にわたりますが、その一つに遊休地の存在があります。利用されずに放置された土地は、景観の悪化や防犯上の問題を生じさせる一方、見方を変えれば新たな活動や交流を生み出す可能性を秘めた資源ともなり得ます。特に、地域活性化やコミュニティ活動を推進される皆様にとって、こうした遊休地をいかに活用し、持続可能な形で地域に賑わいを取り戻すかは、重要なテーマの一つでしょう。
本記事では、遊休地を「人が集まるコミュニティ拠点」として再生させた具体的な事例を取り上げ、その活動の背景、実施手法、そして多くの活動家が直面するであろう資金調達や運営、地域との連携といった実践的な課題にどう向き合い、乗り越えてきたのかを深く掘り下げます。この事例から得られる学びは、皆様の活動における新たな視点や具体的なヒントとなるはずです。
事例紹介:〇〇市の「わかば広場」
今回ご紹介するのは、人口約10万人の地方都市〇〇市にある、NPO法人「まちのエンジン」が運営する「わかば広場」です。ここは元々、商店街の裏手にある約200平方メートルの空き駐車場でした。長年利用されず雑草が生い茂っていましたが、「まちのエンジン」が地権者と交渉し、活用することになった事例です。
「わかば広場」は、以下のような機能を複合的に持つコミュニティ拠点として運営されています。
- オープンな広場スペース: 誰でも気軽に立ち寄れる休憩スペース、小さなイベントの開催場所。
- コミュニティカフェ: 地元の食材を使った軽食や飲み物を提供。高齢者の憩いの場、子連れでも立ち寄りやすい空間。
- レンタルスペース: 地域住民や団体が会議やワークショップ、趣味の活動などに利用できる有料スペース。
- 地域情報発信コーナー: 回覧板やチラシ、地域イベントの告知などを掲示。
- 子どもの遊び場: 簡単な遊具や砂場を設置。
運営主体はNPO法人「まちのエンジン」ですが、実際の運営には地域住民ボランティアが多数参加しています。開設までの経緯としては、まず地権者との根気強い交渉から始まり、NPOが土地を無償で借り受ける代わりに管理責任を負うという形で合意に至りました。その後、改修費用の調達と、地域住民への活動周知・参加呼びかけが進められました。
活動の工夫と具体的な手法
「わかば広場」の運営において、「まちのエンジン」が実践した具体的な工夫や手法は、多くの地域活動に参考となるものです。
1. 多様な資金調達戦略
コミュニティ拠点の運営には継続的な資金が必要です。「わかば広場」では、単一の収入源に頼らず、複数の方法を組み合わせています。
- 初期費用:
- クラウドファンディング: 改修費の一部をクラウドファンディングで募り、地域の共感を呼びました。リターンにはカフェの割引券や広場でのイベント参加権などを設定し、支援者が活動に関心を持ち続ける仕組みを作りました。
- 公的助成金: 〇〇市の「まちづくり補助金」や、企業のCSR助成金などを積極的に活用しました。申請書類の作成には労力がかかりますが、団体の信頼性向上にもつながります。
- 運営費用:
- コミュニティカフェ収益: カフェ事業の売上を運営費の基盤としています。原価管理を徹底しつつ、地域に愛されるメニュー開発に力を入れています。
- レンタルスペース収入: スペースの貸し出し料も重要な収入源です。利用しやすい料金設定と、予約システムの導入で利用を促進しています。
- 賛助会員制度: 個人の寄付を募る賛助会員制度を設け、活動の継続を応援してもらう仕組みを作っています。会報の発行や会員限定イベントで、会員とのつながりを維持しています。
- イベント収入: 広場やカフェを利用したイベント(マルシェ、ワークショップなど)の出展料や参加費も運営費に充てています。
このように、事業収益、会費、寄付、助成金などを組み合わせることで、特定の資金源への依存度を下げ、リスクを分散しています。
2. 地域住民を巻き込む運営体制
「わかば広場」の成功は、運営メンバーの力だけでなく、地域住民の積極的な関与によるところが大きいです。
- ボランティア募集と育成: オープン当初からボランティア募集を積極的に行いました。説明会を開催し、活動内容だけでなく「わかば広場」が目指すビジョンを共有しました。参加へのハードルを下げるため、掃除、カフェの手伝い、イベント準備、広場の簡単な手入れなど、短時間でもできる多様な役割を用意しました。定期的な交流会やスキルアップ研修(簡単な接客、イベント企画など)を行い、ボランティアの定着とモチベーション維持に努めています。
- 運営会議への参加: 主要な意思決定を行う運営会議には、ボランティアリーダーや地域住民代表も参加できるよう仕組み化しています。これにより、運営側の視点だけでなく、利用者の声や地域のニーズを反映した運営が可能になっています。
- 得意なことの持ち寄り: 「わかば広場」では、「料理が得意な人はカフェメニュー開発」「DIYが得意な人は遊具の修繕」「話し好きの人はカフェでの話し相手」など、住民それぞれの得意なことを活かせる場を提供しています。これにより、運営側の負担を減らしつつ、住民の主体的な参加を促しています。
3. 行政・地域団体との連携
スムーズな活動運営と地域全体への波及効果のためには、他組織との連携が不可欠です。
- 地権者との関係維持: 土地を無償で借りているため、地権者への感謝を忘れず、定期的な活動報告や広場の利用状況の共有を行っています。良好な関係を維持することが、活動継続の基盤となります。
- 行政との連携: 〇〇市のまちづくり担当課とは密に連携を取り、補助金申請だけでなく、広場周辺の環境整備やイベント時の許可申請などでサポートを得ています。また、市の広報誌で活動を紹介してもらうなど、情報発信でも連携しています。
- 商店街・地域団体との協働: 近隣の商店街組合と協力し、共同でイベントを企画したり、広場を商店街の休憩スペースとしてもPRしたりしています。他のNPOや市民活動団体とも情報交換を行い、互いのイベントを告知し合うなど連携を深めています。
成果と効果
「わかば広場」の取り組みは、遊休地の有効活用という当初の目的を超え、地域に様々な良い変化をもたらしています。
- 交流人口の増加: 商店街の裏手という立地ながら、老若男女問わず多くの人が日常的に立ち寄るようになりました。特に、高齢者の孤立防止や、子育て世代の交流の場として機能しています。
- 新たな活動の創出: 広場を拠点に、地域住民による自主的なサークル活動(手芸、読書会など)や、学生による学習支援なども生まれています。
- 地域の賑わい回復: 広場で開催されるマルシェや季節イベントには、市外からも人が訪れるようになり、周辺商店街への回遊性も生まれています。
- 情報交換の活性化: 広場に来れば地域の情報が得られる、困った時に相談できる人がいる、といった安心感が生まれ、地域内の情報交換が活発化しています。
- 遊休地問題への意識向上: 「わかば広場」の成功事例は、市内の他の遊休地活用を検討するきっかけとなり、行政や他の地域での取り組みを後押ししています。
課題と克服、そしてそこから得られた学び
順風満帆に見える活動も、常に様々な課題と向き合いながら進められています。「まちのエンジン」が直面した課題と、その克服プロセスから得られる学びは、読者にとって特に実践的な示唆に富むでしょう。
1. 資金繰りの不安定さ
特に初期のカフェ事業やイベント収入だけでは、賃料(無償でも維持管理費はかかる)、光熱費、人件費(一部スタッフ)、備品費といった継続的な運営費を賄いきれない時期がありました。
- 克服策: カフェメニューの見直しによる客単価向上、利用率の低い時間帯のレンタルスペース利用促進キャンペーン、企業版ふるさと納税や地域の企業への寄付のお願いなど、収益の柱を強化・多様化しました。また、徹底したコスト管理を行い、無駄な支出を削減しました。
- 学び: 複数の収入源を組み合わせることは必須であり、常に新たな資金調達の可能性を探り続ける姿勢が重要です。また、キャッシュフローを正確に把握し、余裕を持った資金計画を立てることが運営継続の生命線となります。
2. 運営メンバー(ボランティア)の負担増と定着
活動が活発化するにつれて、少数の中心メンバーやボランティアに業務が集中し、負担が増大しました。また、特定の時期だけ人が集まるが定着しない、といった課題も生じました。
- 克服策: タスクを細分化し、「週に1時間だけカフェを手伝う」「月1回のイベント設営だけ参加する」など、参加しやすい多様な関わり方を用意しました。ボランティア同士の交流イベントや、活動報告会で貢献を可視化し、感謝を伝える機会を増やしました。学生インターンや、地域活動に関心のある移住希望者など、新たな担い手の掘り起こしにも取り組みました。
- 学び: 多様な参加スタイルを用意し、各自のスキルや状況に合わせて貢献できる仕組みを作ることが定着につながります。中心メンバーだけでなく、活動に関わる全ての人への「感謝の伝達」と「活動の意義共有」を継続的に行うことが、モチベーション維持に不可欠です。
3. 地域住民全体への理解浸透と協力
商店街関係者や近隣住民の中には、「空き地が何かに使われるのは良いが、自分たちには関係ない」「うるさくなるのでは」といった無関心や懸念の声もありました。
- 克服策: オープン前から地域説明会を複数回開催し、活動の目的やメリット(賑わい創出、防犯効果など)を丁寧に伝えました。オープン後も、誰でも参加できるお祭りや餅つき大会など、地域住民が主体的に関われる交流イベントを企画しました。広場の清掃活動を地域住民と共同で行うなど、「自分たちの場所」として愛着を持ってもらうための取り組みを続けました。
- 学び: 一部の賛同者だけでなく、地域全体を巻き込むためには、時間をかけて丁寧に説明し、小さな成功体験を共有することが重要です。一方的な情報発信ではなく、住民の声に耳を傾け、共に活動を作り上げていく姿勢が不可欠です。
4. 土地利用に関する調整や法規制
遊休地の借り受けや用途変更、建築確認など、土地の利用には様々な法的な手続きや行政との調整が必要となります。
- 克服策: 土地活用の経験が豊富なNPOや専門家(弁護士、行政書士など)に早期に相談し、法的なハードルや手続きの流れを把握しました。行政のまちづくり担当課や建築指導課とも密に連携を取り、必要な情報を収集し、適切な手続きを踏みました。
- 学び: 土地活用においては、法的な側面や行政手続きが重要な壁となり得ます。専門家の知見を借りたり、行政との信頼関係を築いたりすることが、スムーズな事業推進のために非常に有効です。
成功・失敗から得られる普遍的な学び
「わかば広場」の事例から、持続可能なコミュニティ拠点づくりや地域活動全般に応用できる、いくつかの重要なノウハウが抽出できます。
- ビジョンの共有と共感: 何のために活動するのか、どんな地域を目指すのか、そのビジョンを明確に伝え、多くの人々の共感を得ることが、資金や人材を集める上で最も重要です。
- 多様な関わり方の設計: メンバーやボランティアのコミットメントレベルは様々です。負担が少なくても貢献できる役割を用意することで、間口を広げ、多くの人が「自分ごと」として関われるようになります。
- 収益構造の多角化: 一つの資金源に頼るのではなく、事業収入、会費、寄付、助成金など、複数の柱を持つことで、資金的なリスクを分散し、安定した運営につながります。
- 課題解決を楽しむ姿勢: 活動には必ず困難が伴います。課題をネガティブに捉えるだけでなく、それをどう乗り越えるか、その過程で何を学ぶかを考えることで、チームの成長や新たなアイデアの創出につながります。
- 他組織との連携を恐れない: 行政、企業、他団体、専門家など、外部との連携は活動の可能性を大きく広げます。互いの強みを活かし、Win-Winの関係を築くことを目指しましょう。
- 成果の可視化と発信: どのような成果が得られているのか(目に見える賑わい、参加者の声、具体的な数値など)を分かりやすく地域内外に発信することで、理解者や協力者を増やし、活動の継続的な推進力となります。
結論:遊休地から生まれる未来への可能性
「わかば広場」の事例は、単なる空き地活用にとどまらず、地域の課題解決と新たな価値創造の場としてのコミュニティ拠点の可能性を示しています。資金調達の工夫、多様な人々を巻き込む運営、そして直面する困難への粘り強い対応は、まさに持続可能な地域活動の要諦と言えるでしょう。
遊休地という地域の資源を、人々の繋がりを生み出す拠点へと転換させるプロセスは、決して平易な道ではありません。しかし、明確なビジョンを持ち、関係者との丁寧な対話を重ね、多様な手法を柔軟に取り入れることで、地域に新たな活力を生み出すことが可能です。
本事例で触れた資金調達、運営体制、他組織との連携、そして課題克服のノウハウが、読者の皆様がそれぞれの地域で取り組む活動のヒントとなり、持続可能な街づくりへ向けた一歩を踏み出す一助となれば幸いです。皆様の地域での挑戦を心より応援しております。